「日矢」とは雲の間から差す太陽の光のことを意味し、太陽が雲に隠れているとき、雲の切れ間あるいは端から光が漏れ、光線の柱が放射状に地上へ降り注いで見える現象です。気象現象では薄明光線といい、天使のはしご、と呼ばれることもあります。
箱甲面は形状を行雲に見立て、黒艶消しの高蒔絵を施し、中心の雲の間からの光が零れています。箱側面は雲の間から差す無数の日矢を様々な金蒔絵や螺鈿で表現しました。箱側面を一回りすると、裏面には霧雨、そして雨上がりに虹が掛かる意匠になります。蓋内側には朧月夜の空、そして身の立ち上がりには、月明かりに照らされた夜露に輝く蜘蛛の巣を表現しております。
雲間から差す太陽の光、虹、夜露に輝く蜘蛛の巣、いずれも古今東西で様々にスピリチュアルな意味を見出す文化があるようです。
私もこの創作により、そのような感覚を探り当てたような気持ちになった作品になりました。
分野 | 漆芸 |
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発表年 | 2022 |
サイズ | 高さ20.7 x 幅26.8 x 奥行15.3 cm |
材質 | 乾漆(一部木胎)、金、玉虫貝、白蝶貝、白金、銀、顔料 |
展覧会 | 第69回日本伝統工芸展 |
サイン | 箱、作品サイン有 |
備考 | 箱付き |
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乾漆
粘土で形を作り、その形を石こうで型にします。型に麻布を必要とする厚さに漆で貼り重ねて、型からはずして形を作ります。その後、さらに漆を塗って仕上げます。
麻の繊維は漆がしみこむと強くなるので、丈夫で自由な形を作るのに適しています。
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蒔絵
蒔絵は日本独自に発達した漆芸の代表的な技法で1200年ほど前から行われています。器の表面に細い筆を使って漆で絵を描き、その漆が固まらないうちに上から金の粉を蒔きつけて模様をあらわします。
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平文
金や銀などの金属を、薄い板にのばしてからいろいろな形に切りぬいて模様をつける技法を平文と呼びます。
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螺鈿
螺鈿はアワビや夜光貝、白蝶貝などの貝がらの輝いた部分をうすくして使います。「螺」は巻き貝をさし、「鈿」にはかざるという意味があります。螺鈿は、1300年ほど前に中国大陸から伝わった技法で正倉院の宝物にも見ることができます。
鬼平 慶司 Keiji Onihira
蒔絵の技法は多岐にわたり 貴重な漆・金粉・螺鈿など さまざまの漆芸材料・技法を駆使して 創作表現をしています。 新しい漆・顔料などが開発されている近年、新しい技術を取り入れ 活かしてこそ 次の伝統に繋がるとの思いを強くしております。 工芸意匠を創作の基本に 作品の世界観や雰囲気を大切にして さまざまなモチーフやテーマを意欲的に制作していきたいと思っています。