漆芸の説明

漆芸とは、漆の木から出る樹液を器の表面に塗ったり模様を描いて作品をつくる技術のことをいいます。漆は固まると水をはじき、くさらない被膜を作るので、昔から生活の道具に用いられてきました。身のまわりを見回してみましょう。椀や箸、盆や重箱など、漆が塗られた器をすぐに見つけることができます。
漆は石器時代から接着剤として使われ、塗料としては9000年前の縄文遺跡から赤い漆が塗られた装飾品が見つかっています。
この漆の特徴をいかし、金・銀や貝で美しく装飾し、大切な文書や衣装を入れる箱や、楽器、刀の鞘や鎧などがつくられてきました。現在では、椀や盆といった生活用品のほかに、茶道具(棗、香合)や飾箱など美しい漆芸作品がつくられています。

技法紹介

髹漆(きゅうしつ)

髹は「漆を塗る」という意味の漢字で、漆をへらや刷毛(はけ)で塗ることを髹漆といいます。髹漆には、胎(ボディ)を補強するためのに布を貼る布着せなどの下地、中塗り、そして上塗りまでが含まれます。上塗りには漆を塗ったあとで研ぎ出さないで仕上げる塗立て(ぬりたて)、研ぎ炭を使って磨き上げる蝋色(ろいろ)仕上げのほか、数百種類に及ぶ変塗り(かわりぬり)など、複雑な工程、多様なバリエーションがあります。

写真:髹漆(きゅうしつ)

乾漆(かんしつ)

粘土で形を作り、その形を石こうで型にします。型に麻布を必要とする厚さに漆で貼り重ねて、型からはずして形を作ります。その後、さらに漆を塗って仕上げます。
麻の繊維は漆がしみこむと強くなるので、丈夫で自由な形を作るのに適しています。

写真:乾漆(かんしつ)

籃胎(らんたい)

竹は編んで形を作るのに適しています。竹を細く割り表側の皮をはがして漆を塗り重ねます。竹で作ったものは軽くて丈夫なのが特徴です。

写真:籃胎(らんたい)

蒔絵(まきえ)

蒔絵は日本独自に発達した漆芸の代表的な技法で1200年ほど前から行われています。器の表面に細い筆を使って漆で絵を描き、その漆が固まらないうちに上から金の粉を蒔きつけて模様をあらわします。

写真:蒔絵(まきえ)

螺鈿(らでん)

螺鈿はアワビや夜光貝、白蝶貝などの貝がらの輝いた部分をうすくして使います。「螺」は巻き貝をさし、「鈿」にはかざるという意味があります。螺鈿は、1300年ほど前に中国大陸から伝わった技法で正倉院の宝物にも見ることができます。

写真:螺鈿(らでん)

沈金(ちんきん)

塗り上がった漆面に、のみや刀と呼ばれる刃物で模様を線や点で彫ります。彫ったみぞに金箔や細かい金粉をすりこむので、細くて繊細な模様が表現できます。

写真:沈金(ちんきん)

蒟醤(きんま)

模様の彫り方は、線で彫る、点で彫る、またはそれらを組み合わせた彫り方の大きく3種類があり、蒟醤剣という特殊な彫刻刀を使います。

写真:蒟醤(きんま)

彫漆(ちょうしつ)

素地に色漆を何十回も塗り重ねて厚い漆の層を作ります。その層に、彫刻刀で彫り込んで模様を表現する技法を彫漆といいます。

写真:彫漆(ちょうしつ)

存清・存星(ぞんせい)

文様を色漆で描いたあと、存清剣(ぞんせいけん)で文様の輪郭を彫ったり毛彫りをほどこす表現と、蒟醤(きんま)技法をほどこしたあと、輪郭彫りや毛彫りを加える表現があります。彫漆・蒟醤とともに高松を中心に技法が伝えられています。

写真:存清・存星(ぞんせい)

平文(ひょうもん)

金や銀などの金属を、薄い板にのばしてからいろいろな形に切りぬいて模様をつける技法を平文と呼びます。

写真:平文(ひょうもん)

卵殻(らんかく)

漆で模様を描いた上に、細かく割った卵の殻を置いて表現する方法です。
色漆では出すことが難しい白色を鮮やかに表すことができます。おもにウズラの卵を使用します。

写真:卵殻(らんかく)

漆絵(うるしえ)

色漆を使って絵を描く表現が漆絵です。
最も古い時代に生まれた基本的な装飾表現です。

写真:漆絵(うるしえ)

鎌倉彫(かまくらぼり)

木地に模様を浮き彫りし、その後塗りを重ねる技法です。同様の技法は日本各地に伝わっています。

写真:鎌倉彫(かまくらぼり)
出典: 「伝統工芸ってなに?-見る・知る・楽しむガイドブックー」公益社団法人日本工芸会東日本支部編・芸艸堂発行